一つだけ「本当に好きなもの」を持っている人の強さ
先輩の鞄から、ペンが一本出てきた。
なんでもないボールペンに見えたけれど、先輩がそれを持つ手つきが少し丁寧だった。「これ、5年使ってるんだよ」と笑った。書き心地が好きで、替え芯を取り寄せながらずっと使っているらしい。
特別に高いものではなかった。でも先輩がそのペンについて話しているとき、なんだかその人自身がくっきりして見えた。
「本当に好きなもの」が一つある人は、強い。なぜだろうと、ずっと考えていた。
✦ ✦ ✦
「好きなものは何?」と聞かれて、すぐに答えが出ないことがある。
好きなブランドはない。好きな香りも特にない。服も、雑貨も、文房具も、「まあこれでいいか」で選んだものばかり。嫌いなわけではないけれど、「これが好きだ」と胸を張れるものがない。
それは好きなものがない人間なのではなく、「好き」を選ぶ練習をしてこなかっただけだ。
ずっと「無難なもの」「みんなが使っているもの」「失敗しないもの」を選んできた。
その基準の中に、自分の「好き」は入っていない。他人の基準で選び続けると、自分の好みの感覚が鈍ってくる。
✦ ✦ ✦
「本当に好きなもの」が一つある人が強く見えるのは、そこに自分の判断があるからだ。
誰かに勧められたからではなく、流行っているからでもなく、「自分が好きだからこれを選んだ」という事実。その事実が、その人の輪郭を作っている。
持ち物は、自分の延長だ。
「何を持っているか」は「何を選んだか」であり、「何を選んだか」は「自分が何を好きか知っている」ということだ。自分の好きを知っている人は、それだけで立ち姿が違う。
逆に、持ち物の全部が「特に理由なく手元にあるもの」だとしたら、それは自分の輪郭がぼやけているサインかもしれない。
✦ ✦ ✦
たくさん見つける必要はない。
一つでいい。「これは好きだ」と言い切れるものを、一つだけ持つ。
リップの色でもいい。
マグカップでもいい。
いつも使うペンでもいい。
ハンカチでもいい。
選ぶときのコツは一つだけ。「誰かに説明できなくても、自分が好きだと思えるかどうか」で選ぶこと。理由なんてなくていい。「なんか好き」で十分だ。
その「なんか好き」を一つ持っている人は、もう自分の基準を持っている。
今週末、一つだけ探しに行ってみてほしい。自分の「なんか好き」を。
それが見つかったとき、鏡の中の自分が少しだけくっきりして見えるはずだ。
——ところで、その「なんか好き」を見つけたとき、鏡の中の自分にときめくだろうか。
RELATED ARTICLES
ビューティー ネイルを「自分で見て嬉しい色」で選んでみた
無難な色や人に好かれそうな色じゃなく、自分が見て嬉しい色を選んでみた。手元を見るたびに気分が上がる、その小さな幸せの話。
READ MORE
ビューティー 鏡を見るのが、ちょっと楽しくなった
鏡を見るのが苦手だった私が、いつのまにか鏡の前で立ち止まれるようになっていた。顔と髪に小さな手をかけ続けた、その先にあったものの話。
READ MORE
ビューティー スキンケアを変えたのは、誰かに見せるためじゃなかった
恋人ができたわけでも、誰かに会う予定があるわけでもない。それでもスキンケアを丁寧にするようになった。自分のためだけにきれいでいる、の本当の意味の話。
READ MORE