本当は嫌なのに「いいよ」と言ってしまう恋愛
「今日、うちに来ない?」
本当は疲れていた。明日も早い。一人で静かに過ごしたかった。
でも、口から出たのは「いいよ」だった。
断ったら機嫌が悪くなるかもしれない。
「付き合いが悪い」と思われるかもしれない。
せっかく誘ってくれたのに断るのは申し訳ない。
——そういう計算が一瞬で走って、自分の「嫌だ」は引き出しの奥にしまわれる。
こういう「いいよ」を、いくつ重ねてきただろうか。
行きたくない場所に行った「いいよ」。食べたくないものを食べた「いいよ」。
したくないことをした「いいよ」。
その一つひとつは小さい。
でも、全部を足し合わせると、そこに残っているのは「私の気持ち」ではなく「彼の希望」だけだ。
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恋愛の中で「いいよ」と言ってしまうのは、断ることへの恐怖が理由だ。
でも、その恐怖をもう一段掘ると、あるものが見えてくる。
「自分の気持ちよりも、関係を維持することの方が大事」という優先順位。
この優先順位は、一見すると相手への思いやりに見える。相手を喜ばせたい。波風を立てたくない。それは優しさだ——と自分でも思っている。
でも本質は違う。
これは「自分の気持ちには、関係を維持するほどの価値がない」という自己評価の表れだ。自分の「嫌だ」は大したことない。自分の「疲れた」は我慢すればいい。自分の「したくない」は押し込めばいい。そうやって、自分の感情を常にディスカウントしている。
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小さな「いいよ」を積み重ね続けると、二つのことが起きる。
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一つは、自分の本音がわからなくなること。「嫌だ」を何度も飲み込んでいるうちに、何が嫌で何が嫌じゃないのか、自分でも判別がつかなくなる。
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もう一つは、ある日突然、感情が爆発すること。小さな「嫌」を一つずつ飲み込み続けたコップが、ある日些細なきっかけで溢れる。そのとき相手は驚く。「今まで何も言わなかったのに、急にどうしたの」と。
でも、急ではない。ずっと溜まっていた。ただ、あなたがそれを見ないようにしていただけだ。
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「いいよ」を全部やめろ、とは言わない。
でも次に「いいよ」と言いそうになったとき、一呼吸だけ置いてみてほしい。
その一呼吸の間に、自分に一つだけ聞く。「これは本当に”いい”と思っている”いいよ”だろうか」
もし答えが「いいえ」なら、「今日はちょっと疲れてるから、また今度でもいい?」と言ってみる。
たった一回の「また今度」で壊れる関係なら、それは「いいよ」で支えていた関係だ。
あなたの「嫌だ」は、我慢するためにあるのではない。あなたの輪郭を守るためにある。