はじめて、自分のために高い服を買った日
その服を、ショーウィンドウで何度も見ていた。
通勤途中の駅ビル。きれいなシルエットのワンピース。値段を見たとき、一瞬「ない」と思った。普段の月の被服費の、3倍以上。これを買ったら、今月は外食も控えなきゃいけない。
でも、何週間か経っても、その服のことが頭から離れなかった。
ある休日、思いきって店に入った。試着してみると、想像していた以上に、自分に似合っていた。鏡の中の自分が、いつもよりも、自信に満ちて見える。
「これ、買おう」
そう決めたとき、心の中で小さな声が言った。
「でも、これを着てどこに行くの? 着る予定もないのに」。
その声を、初めて、押し返してみた。
「着る予定がなくても、私が着たいから、これでいい」。
レジで支払うとき、少しだけ手が震えた。でも、紙袋を持って店を出たとき、足取りは、来たときよりずっと軽かった。
「着ていく場所がない」の本当の意味
高い服を買うのをためらうとき、よく口にする言葉がある。
「着ていく場所がないし」
「もったいないし」
「日常で着る機会がないし」。
これらは、もっともらしく聞こえる。でも、よく考えてみてほしい。「場所」を理由にしているとき、あなたは、自分自身を場所として認めていない。
特別な誰かに会うため、特別なイベントのため。そういう「外向きの場所」がないと、いい服を着る価値がないと思っている。でも、毎日のあなた自身は、いい服を着るに値しないのだろうか。
恋人ができたら、結婚することになったら、昇進したら——そういう「条件付き」でしか、自分にいい服を許せない。今日の自分は、その服にふさわしくない。今日の自分には、まだ早い。そう思って、いい服を遠ざけ続けている。
でも、考えてみてほしい。条件が揃うのを待っていたら、いつまで経っても、自分に「いい服」を着せられない。条件は、たぶん、永遠に揃わない。あるいは、揃った頃には、もうその服を着る気力もなくなっている。
着る場所は、特別な場所じゃなくていい。今日の、ただの日常で、いい。あなた自身が、いい服を着るに値する場所だ。
自分にお金を使うことへの後ろめたさ
高い服を買うとき、もう一つ襲ってくる感情がある。
罪悪感だ。
「こんなにお金を使っていいのかな」「もっと大切なことに使うべきじゃないかな」。一着の服にこの金額を出すことに、なんだか後ろめたさを感じる。誰かに「贅沢だね」と言われそうな気がする。
でも、その罪悪感の奥にあるのは、たいてい、こんな感覚だ。「私は、これだけのお金を、自分のために使っていい人間じゃない」。
人にあげるお祝いなら、ためらわない。家族のためなら、ぽんと出せる。でも、自分のためになると、急に手が止まる。誰かのためのお金は使えるのに、自分のためのお金は使えない。それは、自分を「お金を使うに値する存在」として認めていないからだ。
一着の服にちゃんとお金を出すことは、ただの買い物じゃない。「私は、自分のためにお金を使っていい人間だ」と、自分に許可を出す行為だ。
その許可は、買い物のたびに更新される。プチプラを買い続けている間、あなたはずっと、「自分には、これくらいで十分」というメッセージを、自分に送り続けている。ちゃんと選んだ一着を買うことは、そのメッセージを書き換える、最初の一歩になる。
✦ ✦ ✦
ずっと気になっているのに、「もったいない」「場所がない」と諦めている服があるなら。
一度だけ、その理由を疑ってみてほしい。
着る場所がないのではない。あなた自身が、その服にふさわしい場所だ。
着る予定がなくても、それを着て出かけたい日が、たぶんすぐにやってくる。あるいは、来週の月曜日、いつもの仕事の日に、思いきって着てもいい。「もったいない」と取っておくより、その服と一緒に過ごす時間を、自分にたくさんあげるほうが、ずっと贅沢だ。
レジで少し手が震えても、いい。その震えは、「私には、もったいない」という古い声が、揺らいでいる音だ。
そして、紙袋を持って店を出たとき、足取りが軽くなっていることに気づくはずだ。あなたが買ったのは、服だけじゃない。「自分のためにお金を使っていい」という、小さな許可だ。
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